、一汽車でも早く東京へ入った方が好からずと思って」
「まあ、船までお前を送ってやるわい」
多忙《いそが》しがっている人に似合わず、達雄はガッカリしたように坐って、復《ま》た煙草を燻《ふか》し始めた。何となく彼は平素《ふだん》のように沈着《おちつ》いていなかった。
停車場の方では、汽車の笛が鳴った。達雄は一向それに頓着《とんちゃく》なしで、思い屈したように、深く青い海の方を眺めていた。
そのうちに、伊東行の汽船の出る時が来た。夫婦は宿を出て、古い松並木の蔭から海岸の方へ下りた。細い砂を踏んで、礫《こいし》のあるところまで行くと、そこには浪《なみ》が打寄せている。旅人の群も集って来ている。艀《はしけ》に乗る男女の客は、いずれも船頭の背中を借りて、泡立ち砕ける波の中を越さねば成らぬ。お種は夫に別れて、あるたくましげな男に背負《おぶ》さった。男はジャブジャブ白い泡の中を分けて行った。
艀が浮いたり沈んだりして本船の方へ近づくに随《したが》って、悄然《しょんぼり》見送りながら立っている達雄の顔も次第にお種には解らなく成った。勝手を知った舟旅で、加《おまけ》に天気は好し、こうして独りで海を
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