時の間にかこんな争闘《あらそい》を始めるように成ったか、と考えた時は腹立しかった。
「今日は。お餅《もち》を持って参じやした。どうも遅なはりやして申訳がごわせん」
こう大きな百姓らしい声で呶鳴《どな》りながら、在の米屋が表から入って来た。
「お餅! お餅!」と下婢は子供に言って聞かせた。お房は手を揚げて喜んだ。この児は未だ「もう、もう」としか言えなかった。
百姓は家の前まで餅をつけた馬を引いて来た。「ドウ、ドウ」などと言って、落葉松《からまつ》の枝で囲った垣根のところへ先《ま》ずその馬を繋《つな》いだ。
八
橋本の姉が夫の達雄と一緒に、汽車で三吉の住む町を通過ぎようとしたのは、翌々年《よくよくとし》の夏のことで有った。
姉のお種は病を養う為に、伊豆の伊東へ向けて出掛ける途中で、達雄は又、お種を見送りながら、東京への用向を兼ねて故郷を発《た》ったのである。この旅には、お種は娘のお仙も嫁の豊世も家に残して置いて、汽車の窓で三吉夫婦に逢《あ》われる順路を取った。彼女は、故郷で別れたぎりしばらく末の弟にも逢わないし、未だ弟の細君も知らないし、成るなら三吉の家で一晩泊
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