くれやしない」
 こうお雪が言った。お雪はもう我慢が仕切れないという風で、いきなり炬燵を離れて、不熱心な下婢の前にある本を壁へ投付けた。
「喧《やか》ましい!」
 下婢は止《よ》すにも止されず、キョトキョトした眼付をしながら、狼狽《うろた》えている。
「何事《なんに》も為《し》てくれなくても可いよ」とお雪は鼻を啜《すす》り上げて言った。「居眠り居眠り本を読んで何に成る――もう可いから止してお休み――」
 唐紙を隔てた次の部屋には、三吉が寂しい洋燈《ランプ》に対《むか》って書物を展《ひろ》げていた。北側の雪は消えずにあって、降った上降った上へと積るので、庭の草木は深く埋《うずも》れている。草屋根の軒から落ちる雫《しずく》は茶色の氷柱《つらら》に成って、最早二尺ばかりの長さに垂下っている。夜になると、氷雪の寒さが戸の内までも侵入して来た。時々|可恐《おそろ》しい音がして、部屋の柱が凍割《しみわ》れた。
「旦那《だんな》さん、お先へお休み」
 と下婢は唐紙をすこし開けて、そこへ手を突いて言った。やがて彼女は炉辺の方で寝る仕度をしたが、三吉の耳に歔泣《すすりなき》の音が聞えた。一方へ向いては貧
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