がら、
「ちょッ。風邪《かぜ》を引くじゃないか」
 と叱るように言って、無理に子供を床の中へ引入れた。お房は起きたがって母に抱かれながら悶《もが》き暴《あば》れた。
 水車小屋の方では鶏が鳴いた。洋燈は細目に暗く赤く点《とぼ》っていた。お雪は頭を持上げて、炉辺《ろばた》に寝ている下婢を呼起そうとした。幾度も続けざまに呼んだが、返事が無い。
「ああああ、驚いちまった」
 お雪は嘆息した。この呼声に、下婢が眼を覚まさないで、子供が泣出した。
「ハイ」
 と下婢は呼ばれもしない頃に返事をして、起きて寝道具を畳んだ。下婢が台所の戸を開ける頃は、早起の隣家の叔母《おば》さんは裏庭を奇麗に掃いて、黄色い落葉の交った芥《ごみ》を竹藪《たけやぶ》の方へ捨てに行くところであった。
「どんなにお前を呼んだか知れやしない……いくら呼んだって、返事もしない」
 こうお雪が起きて来て言った。
 暗い、噎《む》せるような煙は煤《すす》けた台所の壁から高い草屋根の裏を這って、炉辺の方へ遠慮なく侵入して行った。家の内は一時この煙で充《み》たされた。未だ三吉は寝床の上に死んだように成っていた。
「最早、起きて下さい」

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