、蚊帳の内に寝かしてあった子供が泣出した。三吉は子供の傍の方で妻の歔泣《なきじゃくり》の音を聞くまでは安心しなかった。
 浅間登山の一行は翌日の午前に成って帰って来た。直樹は好きな高山植物などを入口の庭に置いて草鞋《わらじ》の紐《ひも》を解いた。
「兄さんにチョッキを借りて行って、好い事をしました――寒くて震えましたよ」
 こう直樹は三吉の顔を眺めて言った。山登りをした制服も濡《ぬ》れ萎れて見えた。この中学生は払暁《あけがた》に噴火口を見て、疲れた足を引摺《ひきず》りながら降りて来た。


 直樹を休ませて置いて、三吉は何処《どこ》へという目的《めあて》もなく屋外《そと》へ歩きに行った。お雪の言ったことに対しても、何とか彼は答えなければ成らなかった。
 午後に成って、三吉はスタスタ歩いて帰って来た。彼は倚凭《よりかか》って眺め入っていた田圃《たんぼ》の側《わき》だの、藉《し》いていた草だの、それから岡を過《よぎ》る旅人の群などを胸に浮べながら帰って来た。家へ戻ってみると、直樹は疲労《つかれ》を忘れる為に湯に行った留守で、お雪は又、子供を背負《おぶ》いながら働いていた。彼女は、「お暇を頂
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