、どれ程苦痛であるか知れなかった。直樹は居ず、三吉は独りで奥の蚊帳の内に横に成りながら、自分で自分の為《す》ることを考えてみた。気味の悪い蚊帳は髪に触って、碌《ろく》に眠られもしなかった。
 十二時過ぎた頃、お雪は寝衣のままで、別の蚊帳の内に起直って、
「御休みですか」
 と声を掛ける。三吉の方では返事もせずに、沈まり返っていた。お雪の啜泣《すすりなき》の声が聞えた。
「貴方、御休みですか」
 と復た呼ぶので、三吉は眠いところを起されたかのように、
「何か用が有るかい」
「何卒《どうぞ》、私に御暇を頂かせて下さい」
 お雪は寝床の上に倒れて、声を放って哭《な》いた。
「明日にしてくれ……そんなことは明日にしてくれ……」
 こう三吉はさも草臥《くたぶ》れているらしく答えて、それぎり黙って了った。身動きもせずにいると、自分で自分の呼吸を聞くことが出来る。彼は寝床の上に震えながら、熟《じっ》と寝た振をしていた。そして耳を澄ました。お雪は泣きながら蚊帳の外へ出て、そこいらを歩く音をさせた。畳がミシリミシリ言う。箪笥《たんす》が鳴る。三吉は最早疑心に捕えられて了って、その物音を恐れた。そのうちに
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