は共同の井戸のある方へ廻道して、日頃懇意な家の軒先に立った。別に用事も無いのに、しばらくそこで近所の人と立話をした。その日の空模様では浅間登山の連中もさぞ困るであろうなどと話し合った。ちらちら燈火《あかり》の点く頃に、三吉はブラリと自分の家へ帰った。
こんな風に、断《ことわり》なしで外出した例《ためし》は三吉に無いことであった。直樹は山の上で一夜を明す積りで出掛けたので、無論夕飯には帰らず、夫婦ぎりで互に黙ったまま食卓に対《むか》って食った。妻の気を悪くした顔付を見ると、三吉は話して差支《さしつかえ》の無いことまで話せなかった。
夕飯の後、お雪は尋ねた。
「曾根さんは未だ居《い》らっしゃいましたか」
この問には、三吉は酷《ひど》く狼狽《ろうばい》したという様子をして、咽喉《のど》へ干乾《ひから》び付いたような声を出して、
「私が知るものかね、そんなことを」
と思わず知らずトボケ顔に答えた。三吉はウソを吐《つ》かずにはいられなかった。そのウソだということを自分で聞いても隠されないような気がした。
その晩、夫婦の取換した言葉は唯《たった》これぎりであった。物を言わないは言うよりか
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