二人の雑談は音楽のことから、ある外国から来ている音楽者の上に移った。
「先生がこう申しますんです」と曾根はその年老いた音楽者のことを言った。「曾根さん、貴方は宗教《おしえ》を信じなければいけません、宗教を信じなければ死んだ後で復た御互に逢《あ》うことが出来ませんからッて――死んで極楽へ行く積りも御座いませんけれど、逢えませんでは心細う御座《ござい》ますねえ……」
 間もなく汽車の時間が来た。三吉は宿の主人に頼んで、車を用意して貰うことにした。
「今日は学校から直《じか》に汽車に乗ってやって来ました」と三吉が言った。
「御宅へ黙って出ていらしったんでしょう……」と曾根も気の毒そうに苦笑《にがわらい》した。
「何卒《どうぞ》、御帰りでしたら、奥さんに宜敷《よろしく》……」
 家の方のことは妙に三吉の気に掛って来た。それを言出した時ほど、彼も平気を装おうとしたことは無かった。三吉は曾根に別れを告げて、復た霧の中を停車場の方へと急いだ。
 日暮に近い頃、三吉は自分の住む町へ入った。家の草屋根が見える辺《あたり》まで行くと、妙に彼の足は躊躇《ちゅうちょ》した。平素《ふだん》とは違って、わざわざ彼
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