た。窓の障子の明いたところからは、冷々とした霧が部屋の内まで入って来た。曾根の話は、三吉の家を訪ねた時のことから、草木の茂った城跡の感じの深かったことや、千曲川の眺望《ながめ》の悲しく思われたことなどに移った。三吉は曾根の身体のことを尋ねてみた。
「別に変りましたことも御座いません」と曾根は悩ましそうに、「山を下りましたら、海辺《かいへん》へ参ってみようかと思います」
 こう言って、それから海と山の比較などを始める。「たしか、小泉さんは山が御好なんで御座いましたねえ」とも言った。
 三吉はすこし煩《うる》さそうに、
「医者は何と言うんですか、貴方《あなた》の御病気を」
「医者? 医者の言うことなぞがどうして宛《あて》に成りましょう。女の病気とさえ言えば、直ぐ歇私的里《ヒステリイ》……」
 曾根の癖として、何時《いつ》でも自身の解剖に落ちて行く。彼女はそこまで話を持って行かなければ承知しなかった。
「私の友達で一緒に音楽を始めました人も、そう申すんで御座いますよ――私ほど気心の解らない者は無い、こうして十年も交際《つきあ》っているのにッて」曾根は自分で自分を嘲《あざけ》るように言った。

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