三吉も冷やかに、「貴方のは――誰もこう同情を寄せることの出来ないような人なんでしょう」
「では、私を御知りなさらないんだ」と言って、曾根は寂しそうに笑って、「昨晩は悲しい夢を見ましたんで御座いますよ……」
 三吉は曾根のションボリとした様子を眺めた。
「私は死んだ夢を見ました……」
 こう言って、曾根は震えた。暫時《しばらく》二人は無言でいた。
「ああ……私は東京の方へ帰るという気分に成りません。東京へ帰るのは、真実《ほんと》に厭《いや》で……」曾根は嘆息するように言出した。
「してみると、貴方も孤独な人ですかネ」と言って、復た三吉は巻煙草を燻した。窓の外は陰気な霧に包まれたり、時とすると薄日が幽《かす》かに射したりした。


 旅情を慰める為に、曾根が東京から持って来た書籍《ほん》は机の上に置いてあった。それを曾根は取出した。旅に来ては客をもてなす物も無かったのである。その曾根が東京の友達から借りて来たと言って、出して見せたような書籍は、以前三吉も読み耽《ふけ》ったもので、そういう書籍の中にあるような思想に長いこと彼も生活していた。この山の上へ移ってから、次第に彼の心は曾根の愛読す
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