未だ彼は曾根の病床に附いていて、看護を怠らないような気がしていた……ふと眼が覚めた。気がついてみると、三吉は自分の細君の側に居た。
このお房の発熱は一晩若い親達を驚かしたばかりで、彼女は直に壮健《じょうぶ》そうな、好く笑う子供に復《かえ》った。
朝晩は羽織を欲しいと思うように成ったのも、間もなくであった。暑中休暇を送りに来た人達もそろそろ帰仕度を始《はじめ》た。九月に入って、お福は東京の学校へ向けて発った。
直樹が別れて行く日も近づいた。浅間登山の連《つれ》があって、この中学生も一行の中に加わって出掛けた。丁度三吉は午前だけ学校のある日で、課業を済まして門を出ると、曾根の宿を訪ねてみたく成った。折角《せっかく》知人が同じ山の上に来ている。この人の帰京も近づいたろう。病気はどうか。こう思った。彼の足は学校から直《じか》に停車場の方へ向いた。
上りの汽車が来た。
午後の一時過には、三吉は汽車の窓から浅間の方を眺めて、直樹のことを想像しながら行く人であった。濃い灰色の雲は山の麓《ふもと》の方まで垂下って来ていた。
高原の上はヒドい霧であった。殆《ほと》んど雨のような霧であった
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