音だの、女の笑い声だのが風に送られて聞えて来る。瓦斯《ガス》の燈《あかり》はションボリとした柳の樹を照している。一歩《ひとあし》三吉が屋外《そと》へ出てみると、暗い空には銀河が煙の様に白かった。
「お雪――」
と三吉が呼んだ。お雪は白い寝衣《ねまき》のままで、冷々とした夜気に打たれながら、彼方是方《あちこち》と歩いていたが、夫の声を聞きつけて引返して来た。
「オイ、風邪を引くといかんぜ」
と三吉は妻を家の内へ呼入れて、表の戸を閉めた。
急に、子供は身体が具合が悪かった。三吉の学校では暑中休暇も短いので、復た彼は弁当を提《さ》げて通う人であったが、帰って来てみると、家のものが皆なでお房の機嫌《きげん》を取っていた。お房は母親から離れずに泣き続けた。
「まあ、どうしたんだろう、この児は」とお雪は持余《もてあま》している。
「智慧熱《ちえねつ》という奴かも知れんよ」と三吉も言ってみた。「橋本の薬をすこし服《の》ませてみるが可い」
夫婦は他の事を忘れて、一緒にお房のことを心配した。子供の泣声ほど直接《じか》に三吉の頭脳《あたま》へ響けて、苦痛を与えるものは無かった。あまりお房が泣止
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