中を撫《な》でてやる。
「ナニ、何でもないんです」とお雪は暫時《しばらく》動かずにいた後で言った。「難有《ありがと》う――直樹さん、もう沢山です」
この嘔吐の音は直樹を驚かした。三吉は何か思い当ることが有るかして、すこし眉《まゆ》を顰《ひそ》めた。流許《ながしもと》の方から塩水を造って持って来て、それを妻に宛行《あてが》った。
その晩は、お雪はお福と一緒に蚊帳《かや》を釣って、平常《いつも》より早くその内へ入った。蚊が居て煩《うるさ》いと言いながら、一度横に成った姉妹《きょうだい》は蝋燭《ろうそく》を点《とも》して、蚊帳の内を尋ね廻った。緑色に光る麻蚊帳を外から眺めながら、三吉と直樹の二人は遅くまで読んだ。
お雪は何時までも団扇《うちわ》の音をさせていたが、夫や直樹の休む頃に復た起きて、蚊帳の外で涼んだ。三吉も寝る仕度をして、子供の枕許《まくらもと》を覗《のぞ》くと、お雪が見えない。
「何しているんだろうナア」
こう独語《ひとりごと》のように言って、三吉は探してみた。表の入口の戸が明いていた。隣近所でも最早《もう》寝たらしい。向の料理屋の二階だけは未だ賑《にぎや》かで、三味線の
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