です。多分正太さんも宗さんから借りて来たんでしょう」
 達雄はお種と顔を見合せた。宗さんとは三吉が直ぐ上の兄にあたる宗蔵のことである。「どうも不思議だ、不思議だと思った」と達雄が言った。
「三吉の方が正直なと見えるテ」とお種も考深い眼付をする。
 金側の時計が銀側の時計に変ったということは、三吉にはさ程《ほど》不思議でもなかった。「正直なと見えるテ」と言われる三吉にすら、それ位のことは若いものに有勝《ありがち》だと思われた。達雄はそうは思わなかった。


「どういう人に成って行くかサ」とお種は更に吾子《わがこ》のことを言出して、長い羅宇《らう》の煙管《きせる》で煙草《たばこ》を吸付けた。「一体|彼《あれ》は妙な気分の奴で、まだ私にも好く解らないが――為《す》る事がどうも危《あぶな》くて危くて――」
「正太さんですか」と三吉も巻煙草を燻《ふか》しながら、「なにしろ、まだ若いんですもの。話をして見ると心地《こころもち》の好い人ですがねえ。どうかするとこう物凄《ものすご》いような感じのすることが有る。あそこは、僕は面白いところじゃないかと思いますよ」
「実は、私も、そうも思って見てる」
 こ
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