なんかで打《ぶ》たれるような目に逢います」
「しかし、お前さん達の仕事は何処《どこ》へでも持って行かれて都合が好いね」とお種が笑った。
達雄は胡坐《あぐら》にした膝《ひざ》を癖のように動《ゆす》ぶりながら、「近頃の若い人には、大分種々な物を書く人が出来ましたネ。文学――それも面白いが、定《きま》った収入が無いのは一番困りましょう」
「言わば、お前さん達のは、道楽商売」とお種も相槌《あいづち》を打つ。
三吉は答えなかった。
「正太もね、お前さん達の書いた物は好きで、よく読む」とお種は言葉を続けて、「やっぱり若い者は若い者同志で、何処か似たような処も有ろうから、なるべく彼《あれ》にも読ませるようにしていますよ……ええええ、そりゃあもう今の若い者が私達のような昔者の気では駄目です――そんなことを言ったって、三吉、これでも若い者には負けない気だぞや――こうまあ私は思うから、なるべく正太の気分が開けて行くように……何かまたそういう物でも読ませたら、彼の為に成るだろうと思って……」
「為に成るようなことは、先ずありません」
こう三吉が言ったので、お種は夫と顔を見合せて、苦笑《にがわらい》した
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