た。お雪へ宛てては、「自分の為に君にまで迷惑を掛けて気の毒なことをした、君に咎《とが》むべきことは一つも無い、何卒《どうか》自分にかわって君から詫《わび》をしてくれよ」という意味が書いてある。お雪はその手紙を読んで泣いた。
 月を越えて、三吉の家では一人の珍客を迎えた。三吉は停車場まで行って、背の高い、胡麻塩《ごましお》の鬚《ひげ》の生えた、質素な服装《みなり》をした老人を旅客の群の中に見つけた。この老人が名倉の父であった。
「まあ、阿父《おとっ》さん……」
 とお雪も門に出て迎えた。
 名倉の父は、二人の姉娘に養子して、今では最早余生を楽しく送る隠居である。強い烈《はげ》しい気象、実際的な性質、正直な心――そういうものはこの老人の鋼鉄のような額に刻み付けてあった。一代の中に幾棟《いくむね》かの家を建て、大きな建築を起したという人だけあって、ありあまる精力は老いた体躯《からだ》を静止《じっと》さして置かなかった。愛する娘のお雪が、どういう壮年《わかもの》と一緒に、どういう家を持ったか、それを見ようとして、遙々《はるばる》遠いところを出掛けて来たのであった。
「先ずこれで安心しました」

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