ち候。思うに君は春秋に富まるるの身、生とても同じ。一旦の悲哀よりして互に終生を棄つるなく、他日手を執りて今日を追想し、胸襟《きょうきん》を披《ひら》いて相語るの折もあらば、これに過ぎたる幸はあらじと存じ候……」
 この勉へ宛てた手紙を読んで了った時、三吉は何か事業《しごと》でも済ましたように、深い溜息《ためいき》を吐《つ》いた。お雪は畳の上に突伏《つっぷ》したまま、やや暫時《しばらく》の間は頭を揚げ得なかった。
「オイ、そんなことをしていたって仕様が無い。この手紙は皆なの寝てるうちに出して了おう」
 と三吉は慰撫《なだ》めるように言って、そこに泣倒れたお雪を助け起した。郵便函《ポスト》は共同の掘井戸近くに在った。三吉は妻を連れて、その手紙を出しながら一緒にそこいらを歩いて来ようと思った。
 お福や書生の眼を覚ませまいとして、夫婦は盗むように家の内を歩いた。表の戸を開けてみると、屋外《そと》は昼間のように明るかった。燐《りん》のような月の光は敷居の直ぐ側まで射して来ていた。
 

 裏の流は隣の竹藪《たけやぶ》のところで一度石の間を落ちて、三吉の家の方へ来て復た落ちている。水草を越して流
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