入った豆を豚の脂《あぶら》でいためて、それにお雪は塩を添えたものを別に夫の皿へつけた。彼女は夫の喜ぶ顔を見たいと思った。
「頂戴《ちょうだい》」
とお福や書生は食い始めた。三吉は悪い顔色をして、折角お雪が用意したものを味おうともしなかった。
「今日は碌《ろく》に召上らないじゃ有りませんか……」
と言って、お雪は萎《しお》れた。
その晩、三吉は遅くまで机に対って、書籍《ほん》を開けて見たが、彼が探そうと思うようなものは見当らなかった。復た夜通し考え続けた。名倉の母へ手紙でも書こうか、お雪の親しい友達に相談しようか、と思い迷った。
錯乱した頭脳《あたま》は二晩ばかり眠らなかった為に、余計に疲れた。彼はお雪と勉の愛を心にあわれにも思った。ブラリと家を出て、復た日の暮れる頃まで彷徨《うろつ》いた三吉は、離縁という思想《かんがえ》を持って帰って来た。もし出来ることなら、自分が改めて媒妁《ばいしゃく》の労を執って、二人を添わせるように尽力しよう、こんなことまで考えて来た。
家出――漂泊――死――過去ったことは三吉の胸の中を往《い》ったり来たりした。「自分は未だ若い――この世の中には自分の
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