妻が帰って来て見ても、ちゃんと箪笥の上に在《あ》るようにして置いた。
 お雪とお福の二人は洋傘《こうもり》を持って入って来た。お雪は温泉場の前に展《ひら》けた林檎畠《りんごばたけ》、青々と続いた田、谷の向に見える村落、それから山々の眺望の好かったことなどを、妹と語り合って、復た洗濯物を取込むやら、夕飯の仕度に掛るやらした。
 やがて家のものは食卓の周囲《まわり》に集った。お雪は三吉と相対《さしむかい》に坐って、楽しそうに笑いながら食った。彼女の眼は柔順と満足とで輝いていた。時々三吉は妻の顔を眺めたが、すこしも変った様子は無かった。三吉は平素《いつも》のように食えなかった。


 一夜眠らずに三吉は考えた。翌日《あくるひ》に成ってみると、お雪や勉が交換《とりかわ》した言葉で眼に触れただけのものは暗記《そらん》じて了った程、彼の心は傷《いた》み易《やす》く成っていた。家を出て、夕方にボンヤリ帰って来た。
 夫の好きな新しい野菜を料理して、帰りを待っていたお雪は、家のものを蒐《あつ》めて夕飯にしようとした。土地で「雪割《ゆきわれ》」と称《とな》えるは、莢豌豆《さやえんどう》のことで、その実の
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