「船着の町で、他《よそ》から來る人を大切にして、風俗を固守してる――それ以上は解らん。」
「斯樣《こん》な宿ぢや解らないサ。」とK君は笑つた。「料理屋へでも行つて飮食《のみくひ》して見なけりや――僕はよく左樣《さう》思ふよ、其土地土地の色は彼樣《あゝ》いふ場所へ行つて見ると、一番よく出てる。」
斯う二人で話して居ると、やがてA君とM君もそこへ一緒に成つた。吾儕はこの下田を他の種々《いろ/\》な都會に比較して見た。
「西京が斯ういふ町の代表者だ。」とM君は言つた。
「保守的だから奔放は無いサ。」
とまたM君が言つた。M君はそこまで話を持つて行かなければ承知しなかつた。
朝飯《あさはん》の後、伊東へ向けてこの宿を發つた。是非復た來たい。この次に來る時は大島まで行きたい、と互に言ひ合つた。内儀さんや娘は出て吾儕を見送つた。下女は艀の出るところまで手荷物を持つて隨いて來た。
間もなく吾儕は伊東行の汽船の中にあつた。この汽船は長津呂から下田まで乘つたと同じ型だつた。大小の帆船、荷舟、小舟、舊い修繕中の舟、其他種々雜多な型の舟、あるひは碇泊して居る舟、あるひは動いて居る舟――これらのものは
前へ
次へ
全27ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング