がら話して行つたが、そのうちに一人默り、二人默り、復た/\皆な默つて了つた。
 峠に近づいた頃、馬車は氷を製造する小屋の側《わき》を通つた。そこで吾儕は二三人の働いて居る男に逢つた。
 漸くのことで山上の小屋へ着いた。吾儕は馬車から下りた。何よりも先づ焚火にあてゝ貰つて、更にこれから湯が野まで乘るか、それとも歩いて下るか、とその相談をした。能く喋舌る老婦《ばあさん》が居て、こゝで郵便物は毎日交換されるの、あの氷を製造して居るのは自分の旦那だの。とノベツに話した。吾儕は湯が野まで乘ることに定めた。馬丁は馬に食はせて、今度は自分も乘つて、氷柱《つらゝ》の垂下つた暗い隧道《とんねる》を指して出掛けた。
 隧道を出ると、やがて下りだつた。馬車は霜崩れのした崖の側を勢よく通過ぎた。時とすると吾儕の前には、大きな土の塊が横たはつて居た。其度に、馬丁は車から下《おり》て、土の塊を押除けて、それから馬を驅つた。例の灰色の枯木が突立つた山々は何時の間にか後に隱れた。吾儕は緑色の杉林を見て通つた。その色は木曾谿あたりに見られるやうな暗緑のそれでなくて、明るい緑だつた。半里《はんみち》ばかり下りた。いくらか
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