、おまけにその大《おほ》きな榎木《えのき》の下《した》で、『丁度好《ちやうどい》い時《とき》。』まで覺《おぼ》えて歸《かへ》つて來《き》ました。
一九 木曾《きそ》の蠅《はい》
木曾《きそ》は蠅《はい》の多《おほ》いところです。
木曾《きそ》には毎年《まいとし》馬市《うまいち》が立《た》つくらゐに、諸方《はう/″\》で馬《うま》を飼《か》ひますから、それで蠅《はい》が多《おほ》いといひます。
蠅《はい》は何《なん》にでも行《い》つて取《と》りつきます。荷物《にもつ》をつけて通《とほ》る馬《うま》にも取《と》りつけば、旅人《たびびと》の着物《きもの》にも取《と》りつきます。蠅《はい》は誰《たれ》とでも直《す》ぐ懇意《こんい》になりますが、そのかはり誰《たれ》にでもうるさがられます。こんなうるさい蠅《はい》でも、道連《みちづ》れとなれば懐《なつ》かしく思《おも》はれたかして、木曾《きそ》の蠅《はい》のことを發句《ほつく》に讀《よ》んだ昔《むかし》の旅人《たびゞと》もありましたつけ。
二○ 蚋《ぶよ》
似《に》て、違《ちが》ふもの――蠅《はい》と蚋《ぶよ》。蠅《はい》は
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