木《き》の下《した》に落《お》ちて居《ゐ》たのを皆《みん》な他《ほか》の子供《こども》に拾《ひろ》はれてしまひました。父《とう》さんがこの話《はなし》を爺《ぢい》やにしましたら、爺《ぢい》やがさう申《まを》しました。
『一度《いちど》はあんまり早過《はやす》ぎたし、一度《いちど》はあんまり遲過《おそす》[#ルビの「おそす」は底本では「はやす」]ぎました。丁度好《ちやうどい》い時《とき》を知《し》らなければ、好《い》い榎木《えのき》の實《み》は拾《ひろ》はれません。私《わたし》がその丁度好《ちやうどい》い時《とき》を教《をし》へてあげます。』と申《まを》しました。
ある朝《あさ》、爺《ぢい》やが父《とう》さんに『さあ早《はや》く拾《ひろ》ひにお出《いで》なさい、丁度好《ちやうどい》い時《とき》が來《き》ました。』と教《をし》へました。その朝《あさ》は風《かぜ》が吹《ふ》いて、榎木《えのき》の枝《えだ》が搖《ゆ》れるやうな日《ひ》でした。父《とう》さんが急《いそ》いで木《き》の下《した》へ行《ゆ》きますと、橿鳥《かしどり》が高《たか》い木《き》の上《うへ》からそれを見《み》て居《ゐ》まして
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