お婆《ばあ》さんは、まるでお伽話《とぎばなし》の中《なか》にでも出《で》て來《き》さうなお婆《ばあ》さんでした。
『お前《まへ》さんは誰《だれ》ですか。』
と生徒《せいと》が尋《たづ》ねましたら、お婆《ばあ》さんはニツコリしながら、提《さ》げて居《ゐ》る籠《かご》の中《なか》の蕗《ふき》の蕾《つぼみ》を見《み》せまして
『私《わたし》は「冬《ふゆ》」といふものですよ。』
と生徒《せいと》に言《い》つて聞《き》かせました。夫《それ》から、こんな事《こと》も言《い》ひました。
『お家《うち》へ歸《かへ》つたら、父《とう》さんや母《かあ》さんに見《み》てお貰《もら》ひなさい。お前《まへ》さんの頬《ほつ》ぺたの紅《あか》い色《いろ》もこのお婆《ばあ》さんのこゝろざしですよ。』
五五 少年《せうねん》の遊学《いうがく》
父《とう》さんは九つの歳《とし》まで、祖父《おぢい》さんや祖母《おばあ》さんの膝下《ひざもと》に居《ゐ》ましたがその歳《とし》の秋《あき》に祖父《おぢい》さんのいゝつけで、東京《とうきやう》へ學問《がくもん》の修業《しうげふ》に出《で》ることに成《な》りました。父《とう
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