》を吹《ふ》き/\出掛《でか》けました。
あの飴屋《あめや》さんの吹《ふ》く笛《ふえ》は、そこいらの石垣《いしがき》へ浸《し》みて行《い》くやうな音色《ねいろ》でした。
三四 水晶《すゐしやう》のお土産《みや》
ある日《ひ》、父《とう》さんは人《ひと》に連《つ》れられて梵天山《ぼんてんやま》といふ方《はう》へ行《い》きました。赤《あか》い躑躅《つゝじ》の花《はな》なぞの咲《さ》いて居《ゐ》る山路《やまみち》を通《とほ》りまして、その梵天山《ぼんてんやま》へ行《い》つて見《み》ますと、そこは水晶《すゐしやう》の出《で》る山《やま》でした。父《とう》さんはめづらしく思《おも》ひまして、あちこちと見《み》て歩《ある》いて居《ゐ》ますと、路《みち》ばたに大《おほ》きな岩《いは》がありました。その岩《いは》が父《とう》さんに、彼處《あそこ》を御覽《がらん》、こゝを御覽《ごらん》、と言《い》ひまして、半分《はんぶん》土《つち》のついた水晶《すゐしやう》がそこいらに散《ち》らばつて居《ゐ》るのを指《さ》して見《み》せました。
『あそこにも水晶《すゐしやう》の塊《かたまり》がありますよ。』
とまた岩《いは》が父《とう》さんに指《さ》して見《み》せました。その水晶《すゐしやう》は千本濕地《せんぼんしめぢ》といふ茸《きのこ》のかたまつて生《は》えたやうに、枝《えだ》に枝《えだ》がさしたやうになつて居《ゐ》まして、その枝《えだ》の一つ一つが、みんな水晶《すゐしやう》の形《かたち》をして居《ゐ》ました。
『こんなところから水晶《すゐしやう》が出《で》るんですか。』
と父《とう》さんが聞《き》きましたら、
『えゝ[#「ゝ」は底本では「う」]、さうです。水晶《すゐしやう》はみんな斯《か》うして生《うま》れて來《き》ます。人《ひと》は遠《とほ》いところにばかり眼《め》をつけて、足許《あしもと》に落《お》ちて居《ゐ》る寶石《ほうせき》を知《し》らずに居《ゐ》ますよ。さういふお前《まへ》さんは、この山《やま》は初《はじ》めてゞすか。よく來《き》て下《くだ》さいました。山《やま》の土産《みやげ》に、あそこに落《お》ちて居《ゐ》る美《うつく》しい水晶《すゐしやう》でも一つ拾《ひろ》つて行《い》つて下《くだ》さい。』
斯《か》うその岩《いは》が答《こた》へました。
父《とう》さんはそこいらを探《さが》し廻《まは》りまして、眼《め》についた水晶《すゐしやう》の中《なか》でも一番《いちばん》光《ひか》つたのを土産《みやげ》に持《も》つて歸《かへ》りました。
三五 雄鷄《おんどり》の冒險《ばうけん》
若《わか》い雄鷄《おんどり》がありました。
他《ほか》の鷄《にはとり》と同《おな》じやうに、この雄鷄《おんどり》も人《ひと》の家《うち》に飼《か》はれて大《おほ》きくなりました。小《ちひ》さな雛《ひよ》ツ子《こ》の時分《じふん》から、雄鷄《おんどり》は自分《じぶん》で飛《と》べないものとばかり思《おも》つて居《ゐ》ましたが、だん/″\大《おほ》きくなるうちに、自分《じぶん》に生《は》えて居《ゐ》る羽《はね》を見《み》てびつくりしました。
雄鷄《おんどり》はまだ若《わか》くて元氣《げんき》がありましたから、こんな立派《りつぱ》な羽《はね》があるなら一つこれで飛《と》んで見《み》たいと思《おも》ふやうに成《な》りました。そこで林《はやし》の方《はう》へ出掛《でか》けて行《い》きまして、他《ほか》の鳥《とり》と同《おな》じやうに飛《と》ばうとしました。林《はやし》には百舌《もず》が遊《あそ》んで居《ゐ》ました。百舌《もず》は雄鷄《おんどり》の方《はう》を見《み》ては笑《わら》ひました。そこへ鶸《ひは》も舞《ま》つて來《き》ました。鶸《ひは》は雄鷄《おんどり》の方《はう》を見《み》て、百舌《もず》と同《おな》じやうに笑《わら》ひました。何度《なんど》も何度《なんど》も雄鷄《おんどり》は木《き》の枝《えだ》へ上《のぼ》りまして、そこから飛《と》ばうとしましたが、その度《たび》に羽《はね》をばた/″\させて舞《ま》ひ降《お》りてしまひました。
百舌《もず》には笑《わら》はれる、鶸《ひは》にも笑《わら》はれる、そのうちに雄鷄《おんどり》は餌《え》を欲《ほ》しくなりましたが、林《はやし》の中《なか》にある木《き》の實《み》や虫《むし》はみんな他《ほか》の鳥《とり》に早《はや》く拾《ひろ》はれてしまひました。誰《だれ》も雄鷄《おんどり》のために米粒《こめつぶ》一《ひと》つまいて呉《く》れるものも有《あ》りませんでした。でも、この雄鷄《おんどり》は若《わか》かつたものですから、どうかして飛《と》んで見《み》たいと思《おも》ひまして、木《き》の枝《えだ》へ上《のぼ》つて行《い》
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