る養生園がこうしたおげんを待っていた。最後の「隠れ家」を求めるつもりで国を出てきたおげんはその養生園の一室に、白い制服を着た看護婦などの廊下を往来する音の聞えるところに、年老いた自分を見つけるさえ夢のようであった。病室は長い廊下を前にして他の患者の居る方へ続いている。窓も一つある。あのお新を相手に臥《ね》たり起きたりした小山の家の奥座敷に比べると、そこで見る窓はもっと深かった。
養生園に移ってからのおげんは毎晩薬を服《の》んで寝る度に不思議な夢を辿《たど》るように成った。病室に眼がさめて見ると、生命のない器物にまで陰と陽とがあった。はずかしいことながら、おげんはもう長いこと国の養子夫婦の睦《むつ》ましさに心を悩まされて、自分の前で養子の噂《うわさ》をする何でもない娵《よめ》の言葉までが妬《ねた》ましく思われたこともあった。今度東京へ出て来て直次の養母などに逢って見ると、あの年をとっても髪のかたちを気にするようなおばあさんまでが恐ろしい洒落者《しゃれもの》に見えた。皆《みんな》、化物だと、おげんは考えた。熊吉の義理ある甥《おい》で、おげんから言えば一番目の弟の娘の旦那にあたる人が逢いに
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