わざと風変りに着て、その上に帯を締めた。
直次の娘から羽織も掛けて貰《もら》って、ぶらりと二番目の弟の家を出たが、とかく、足は前へ進まなかった。
小間物屋のある町角で、熊吉は姉を待合せていた。そこには腰の低い小間物屋のおかみさんも店の外まで出て、おげんの近づくのを待っていて、
「御隠居さま、どうかまあ御機嫌《ごきげん》よう」
と手を揉《も》み揉み挨拶した。
熊吉は往来で姉の風体《ふうてい》を眺めて、子供のように噴飯《ふきだ》したいような顔付を見せたが、やがて連立って出掛けた。町で行逢う人達はおげんの方を振返り振返りしては、いずれも首を傾《かし》げて行った。それを知る度におげんはある哀《かな》しい快感をさえ味わった。漠然とした不安の念が、憂鬱《ゆううつ》な想像に混って、これから養生園の方へ向おうとするおげんの身を襲うように起って来た。町に遊んでいた小さな甥達の中にはそこいらまで一緒に随《つ》いて来るのもあった。おげんは熊吉の案内で坂の下にある電車の乗場から新橋手前まで乗った。そこには直次が姉を待合せていた。直次は熊吉に代って、それから先は二番目の弟が案内した。
小石川の高台にあ
前へ
次へ
全70ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング