う。すっかり身体を丈夫にして下さい。家を借りる相談なぞは、その上でも遅かありません」
「いや、どうしても俺は病院へ行くことは厭《いや》だ」
こう言っておげんは聞入れなかった。
「ああああ、そんなつもりでわざわざ国から出て来《こ》すか」
とまた附けたした。
しかし、熊吉は姉の養生園行を見合せないのみか、その翌日の午後には自分でも先《ま》ず姉を見送る支度《したく》をして、それからおげんのところへ来た。熊吉は姉の前に手をついて御辞儀した。それほどにして勧めた。おげんはもう嘆息してしまって、肉親の弟が入れというものなら、それではどうも仕方がないと思った。おげんはそこに御辞儀した弟の頭を一つぴしゃんと擲《なぐ》って置いて、弟の言うことに従った。
その足でおげんは小間物屋の二階を降りた。入院の支度するために直次の家へと戻った。彼女はトボケでもしないかぎり、どの面《つら》をさげて、そんな養生園へ行かれようと考えた。丁度、国から持って来た着物の中には、胴だけ剥《は》いで、別の切地《きれ》をあてがった下着があった。丹精して造ったもので、縞柄《しまがら》もおとなしく気に入っていた。彼女はその下着を
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