ように、「私が先生の御世話になった時分はお嬢さんもまだ一向におちいさかった。これまでにお育てになるのは、なかなかお大抵じゃない」
「いえ、蜂谷さん、あれがあるばかりに私も持ちこたえられたようなものよなし。ほんとに、あれのお陰だぞなし。あれは小さな時分からすこしも眼の放されないようなもので、それは危くて、危くて、『お新、こうしよや、ああしよや』ッて、一々私が指図だ。ゆっくりゆっくり私が話して聞かせると、そうするとあれにも分って、私の方で教えた通りになら出来る。なんでもああいう児には静かな手工のようなことが一番好いで、そこへ私も気がついたもんだで、それから私も根気に家の仕事の手伝いをさせて。ええええ、手工風のことなら、あれも好きで為《す》るわいなし。そのうちに、あなた、あれも女でしょう。あれが女になった時なぞは、どのくらい私も心配したか知れすか」
「全く、これまでに成さるのはお大抵じゃなかった。医者の方から考えても、お嬢さんのような方には手工が適しています。もうこれまでになされば、小山さんもご安心でしょう」
「そこですテ。私があれに干瓢《かんぴょう》を剥《む》かして見たことが有りましたわい
前へ
次へ
全70ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング