な子供だ。
「ほんに」とおげんは甥というよりは孫のような三吉の顔を見て言った。「そう言えば三吉は何をして屋外で遊んで来たかや」
「木曽川で泳いで来た。俺も大分うまく泳げるように成ったに」
三吉は子供らしい手付で水を切る真似《まね》をして見せた。さもうまそうなその手付がおげんを笑わせた。
「東京の兄さん達も何処《どこ》かで泳いでいるだらずかなあ」
とまた三吉が思出したように言った。この子はおげんが三番目の弟の熊吉から預った子で、彼女が東京まで頼って行くつもりの弟もこの三吉の親に当っていた。
「どれ、そう温順《おとな》しくしておばあさんの側に遊んでいてくれると、御褒美《ごほうび》を一つ出さずば成るまいテ」
と言いながらおげんは菓子を取出して来て、それを三吉に分け、そこへ顔を見せたお新の前へも持って行った。
「へえ、姉さんにも御褒美」
こうおげんが娘に言う時の調子には、まだほんの子供にでも言うような母親らしさがあった。
「蛙がよく鳴くに」とその時、お新も耳を澄まして言った。「昼間鳴くのは、何だか寂しいものだなあし」
「三吉や、お前はあの口真似をするのが上手だが、このおばあさんも一つや
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