のどをうるほす露あらず、
悲しやはらばふ身にしあれば
あつさこよなう堪へがたし。

受けゝる手きずのいたみも
たゝかふごとになやみを増しぬ。
今は拂ふに由もなし、
爲すまゝにせよ、させて見む、
小兵奴らわが背にむらがり登れかし。

得たりと敵は馳せ登り、
たちまちに背を葢ふほど;
くるしや許せと叫ぶとすれど、
聲なき身をばいかにせむ、
せむ術なくてたふれしまゝ。

おどろきあきれて手を差し伸れば
パツと散り行く百千の蟻;
はや事果しかあはれなる、
先に聞し物語に心奪はれて、
救ひ得させず死なしけり。

ねむごろに土かきあげ、
塵にかへれとはうむりぬ。
うらむなよ、凡そ生とし生けるもの
いづれ塵にかへらざらん、
高きも卑きもこれを免《のが》れじ。

起き上ればこのかなしさを見ぬ振に、
前にも増せる花の色香;
汝《いまし》もいつしか散りざらむ、
散るときに思ひ合せよこの世には
いづれ絶えせぬ命ならめや。
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  一點星


眠りては覺め覺めては眠る秋の床、
結びては消え消えては結ぶ夢の跡。
  油や盡きし燈火の見る見る暗に成り行くに、
  なかなかに細りは行かぬ胸の思ぞあや
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