や、おのれくせもの、
思はずこぶしを打ち擧げて
うたんとすれば、「やよしばし。
「おのれは地下に棲みなれて
花のあぢ知るものならず;
今朝わが家を立出でゝより、
あさひのあつさに照らされて、
今唯だ歸らん家を求むるのみ。
「おのれは生れながらにめしひたり、
いづこをば家と定むるよしもなし。
朝出る家は夕べかへる家ならず、
花の下にもいばらの下にも
わが身はえらまず宿るなり。
「おのれは生れながらに鼻あらず、
人のむさしといふところをおのれは知らず、
人のちりあくた捨つるところに
われは極樂の露を吸ふ、
こゝより樂しきところあらず。
「きのふあるを知らず
あすあるをあげつらはず、
夜こそ物は樂しけれ、
草の根に宿借りて
歌とは知らず歌うたふ。」
やよやよみゝず説くことを止めて
おのがほとりに仇あるを見よ;
智慧者のほまれ世に高き
蟻こそ來たれ、近づきけれ、
心せよ、いましが家にいそぎ行きね。
「君よわが身は仇を見ず、
さはいへあつさの堪へがたきに、
いざかへんなん、わが家に、
そこには仇も來らまじ、安らかに、
またひとねむり貪らん。」
そのこといまだ終らぬに、
かしこき仇は
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