るもの書《ふみ》と爐火《ゐろり》、
軒下の垂氷《つらゝ》と共に心《むね》凍《こほ》り
  眺めて學ぶ雪達摩、
   けふまでこそは梅櫻、
   霜の惱みに默しけれ。

霜柱きのふ解けたる其儘に
  朝風《あさかぜ》ぬるしけふ夜明け、
書《ふみ》の窓うぐひすの音《ね》に開かれて、
  顏さし出《だ》せば梅の香や、
   南か北か花見えず、
   いづこの杜《もり》に風の宿。

耳澄まし暫く聞けば鶯《とり》の音《ね》は
  「春」てふものをおとづれぬ。
  × × × × × × × ×
書《ふみ》とぢよ、筆|措《お》けかしといざなふは
  いづこに我をさそふらん。
   冬に慣れにし氣《き》は結び、
   杖ひき出づる力なし。

        〔この間見えず〕
  ひとむち當てゝ急がなん。
   花ある方《かた》よ、わが行くは、
   ゆふべの夢の跡戀し。


   第二 霞の中
來《こ》し道は細川までを限りにて
  霞に迷ひうせにけり、
春の駒ひとこゑ高く嘶けば、
  吾が身もやがて烟《けむ》の中《うち》、
   戀にむせびてうなだるゝ、
   招きし花はいづこぞや。

夢にまでうつ
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