は寧《むし》ろ思想の内界に於て、遙かに偉大なる大革命を成し遂げたるものなることを信ぜんと欲す。武士と平民とを一団の国民となしたるもの、実に此革命なり、長く東洋の社界組織に附帯せし階級の繩を切りたる者、此革命なり。而して思想の歴史を攻究する順序より言はゞ、吾人は、この大革命を以て単に政治上の活動より生じたるものと認むる能はず、自然の理法は最大の勢力なり、平民は自ら生長して思想上に於ては、最早旧組織の下に黙従することを得ざる程に進みてありたり、明治の革命は武士の剣鎗にて成りたるが如く見ゆれども、其実は思想の自動多きに居りたるなり。
 明治文学は斯の如き大革命に伴ひて起れり、其変化は著るし、其希望や大なり、精神の自由を欲求するは人性の大法にして、最後に到着すべきところは、各個人の自由にあるのみ、政治上の組織に於ては、今日未だ此目的の半を得たるのみ、然れども思想界には制抑なし、之より日本人民の往《ゆ》かんと欲する希望いづれにかある、愚なるかな、今日に於て旧組織の遺物なる忠君愛国などの岐路に迷ふ学者、請ふ刮目《くわつもく》して百年の後を見ん。

     三、変遷の時代

 残燈もろくも消えて徳
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