ん》として歎ず、今の時代に沈厳高調なる詩歌なきは之を以てにあらずや。
今の時代は物質的の革命によりて、その精神を奪はれつゝあるなり。その革命は内部に於て相容れざる分子の撞突《たうとつ》より来りしにあらず。外部の刺激に動かされて来りしものなり。革命にあらず、移動なり。人心|自《おのづか》ら持重するところある能はず、知らず識らずこの移動の激浪に投じて、自から殺ろさゞるもの稀なり。その本来の道義は薄弱にして、以て彼等を縛するに足らず、その新来の道義は根蔕《こんたい》を生ずるに至らず、以て彼等を制するに堪へず。その事業その社交、その会話その言語、悉《こと/″\》く移動の時代を証せざるものなし。斯の如くにして国民の精神は能《よ》くその発露者なる詩人を通じて、文字の上にあらはれ出でんや。
国としての誇負《プライド》、いづくにかある。人種としての尊大、何《いづ》くにかある。民としての栄誉、何くにかある。適《たまた》ま大声疾呼して、国を誇り民を負《たの》むものあれど、彼等は耳を閉ぢて之を聞かざるなり。彼等の中に一国としての共通の感情あらず。彼等の中に一民としての共有の花園あらず。彼等の中に一人種と
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