。死せざるに近きものいづくにかある。われこの答へを聞かんが為に過去の半生を逍遙黙思に費《つひ》やせり。而して遂にその一部分を聞けりと思ふは、非か、非ならざるか。
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天地《あめつち》の分れし時ゆ、神さびて高く貴き駿河なる富士の高嶺《たかね》を、天の原振りさけ見れば渡る日の、影も隠《かく》ろひ、照る月の、光も見えず、白雲もい行憚《ゆきはゞか》り時じくぞ雪は降りける、語り継ぎ云ひ継ぎ行かん富士の高嶺は。(赤人)
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白雲、黒雲、積雪、潰雪《くわいせつ》、閃電《せんでん》、猛雷、是等のものを用役し、是等のものを使僕し、是等のものを制御して而して恒久不変に威霊を保つもの、富嶽《ふがく》よ、夫れ汝か。渡る日の影も隠ろひ、照る月の光も見えず、昼は昼の威を示し、夜は夜の威を示す、富嶽よ汝こそ不朽不死に邇《ちか》きものか。汝が山上の浮雲よりも早く消え、汝が山腹の電影よりも速に滅する浮世の英雄、何の戯れぞ。いさましや汝の山麓を西に馳する風、こゝろよや汝の山嶺を東に飛ぶ風。流転の力汝に迫らず、無常の権《ちから》汝を襲《おそ》はず。「自由」汝と共にあり、国家汝と与
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