雅客を嘲《あざけ》るもの、邦家を知らざるの故を以て彼等を貶《へん》せんとする事多し。故郷は之れ邦家なり、多情多思の人の尤も邦家を愛するは何人か之を疑はむ。孤剣|提《ひつさ》げ来りて以太利《イタリー》の義軍に投じ、一命を悪疫に委《ゐ》したるバイロン、我れ之を愛す。」請ふ見よ、羅馬《ローマ》死して羅馬の遺骨を幾千万載に伝へ、死して猶《な》ほ死せざる詩祖ホーマーを。」邦家の事|曷《いづく》んぞ長舌弁士のみ能く知るところならんや、別に満腔の悲慨を涵《たゝ》へて、生死悟明の淵に一生を憂ふるものなからずとせんや。
俗物の尤も喜ぶところは憂国家の称号なり。而して自称憂国家の作するところ多くは自儘《じまゝ》なり。彼等は僻見多し、彼等は頑曲《ぐわんきよく》多し。彼等は復讐心を以て事を成す。彼等は盲目の執着を以て業を急《いそ》ぐ。彼等は夢幻中の虚想を以て唯一の理想となす。彼等の慷慨、彼等の憂国、多くは彼等の自ら期せざる渦流に巻き去られて終ることあるものぞ。
朽ちざるものいづくにある、死せざるものいづくにある。われ答を俟《ま》ちて躊躇《ちうちよ》せり、而して答遂に来らず。朽ちざるに近きものいづくにかある
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