ここで字下げ終わり]
 まことに人間は自由を享有すべき者なるよ。今日までの歴史を細閲すれば、自由を買はんとて流せし血の価《あたひ》と煩悶せし苦痛の量とはいかばかりぞや。
[#ここから2字下げ]
And thus the native hue of resolution
Is sicklied o'er with the pale cast of thought ; etc.
[#ここで字下げ終わり]
 徳川氏末世の平民、実にこの煩悶を有《たも》つこと少なからざりしなり、この煩悶の苦痛に堪《た》へがたかりしなり、こゝに於てか権勢家の剛愎《がうふく》にして暴慢なる制抑を離れて、別に一種の思想境を造り、以て自ら縦《ほしいまゝ》にするところなきを得ず。この思想境は余が所謂《いはゆる》一種の平民的虚無思想の聚成《しゆうせい》したるところなり。而して十返舎一流の戯墨は実に、この種の思想境より外に鳴り出でたる平民者流の自然の声にあらずして何ぞや。
 民友子|先《さき》つ頃「俗間の歌謡」と題する一文を作りて、平民社界に行はるゝ音楽の調子の低くして険《けん》なるを説きぬ。民友子は時勢を洞察して、歎慨の余
前へ 次へ
全29ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング