ノあらず、我がシバルリイのごとく圧抑の反動として、兇暴に対する非常的手腕として発したるものにはあらで、燦然《さんぜん》たる光輝を放ち、英国今日の気風、英国今日の紳士紳女を彼の如くになしたるも、実にこのシバルリイの余光にてありしことを知るべし。
 侠といふ文字、英語にては甚だ訳し難かるべし、訳し難き程に我が歴史上の侠は、欧洲諸国のシバルリイとは異なれるところあるなり。※[#「にんべん+淌のつくり」、第3水準1−14−30]《も》し強《し》ひてシバルリイを我が平民界の理想に応用せんとせば、侠と粋(侠客の恋愛に限りて)とを合せ含ましめざる可からず、侠客の妻《さい》を取りて研究せば、得るところあらむ。
 我が平民界の侠客をうつして文章に録せしもの、甚だ多し、われは一々之を参照する能はず、こゝに馬琴が其「侠客伝」に序して曰ひし数句を挙げて、其意見を窺《うかゞ》ひ見む。曰く、近世有[#乙]大鳥居逸平、関東小六、幡随長兵、及号[#二]茨城草袴、白柄大小神祇[#一]者[#甲]、皆是閭巷侠、而其所[#レ]為、或未[#三]必合[#二]於義[#一]、啻立[#レ]気斉作[#二]威福[#一]、結[#二]私交[#
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