フ放縦なるものとなりて、以て暗《あん》に武門の威権を嘲笑せり。故に彼等は自然に政権を軽視して、幕府の紀律に繋がれざる豪放の素性を養ひ、社界全躰より視る時は一種の破壊的原素を其中に発生せしめて、大に幕府を苦しめたり。制禁に遭ひたる戯作の類、遠島に処せられたる画家の事、是が現象の一として挙ぐるに足るべし。漸く閭巷《りよかう》の侠客なるもの起り来りて、幕政を軽侮し、平民社界の保護者となり、圧抑者に対する破壊的手腕(天知子の語を借用す)となりたるも、是が一現象なりけり。
自然の傾向は人力の争ふこと能はざるものなり、従来文学なるものは独り高等民種の境内に止《とゞ》まりて、平民は一切思想上の自由を持たざりし如くなりしものが、軈《には》かに元禄以降の盛運に際会して、其思想界に多数の預言者を生みて、自から一貫の理想を形《かたちづ》くりたれば、其理想する紳士も、其理想する美人も、其理想する英雄も、有り/\と文学上に映現し出でたり。
こゝに注意を逃《の》がすべからざる一大現象は、遊廓なるものゝ大にこの時代に栄えたることなり、難波或は西京には古くよりこの組織ありしと雖、江戸にてこの現象の大にあらはれたる
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