て天下に傲《ほこ》らず、而も諸強国に対峙《たいぢ》して遜色ある事なし。

     彼は迫らず

 蓋し彼は悠々として強弱の外に濶歩しつゝあるなり。彼は匠工なり、建設する事を心に留めて他を顧みず。蓋し猛虎も餓《う》ゆるが故に他を攫《くわく》す、然れども何の日か猛虎の全く餓ゆるなきを得む。猛虎の野に吼《ほ》ゆるや、其音|懼《おそ》る可し、然れども、其去れる跡には、莫然《ばくぜん》一物の存するなし、花は前の如くに笑ひ、鳥は前の如くに吟ず。彼《か》の匠工に至りては然らず、其建設する所一として空しきはなし。彼れ能く堅固なる鉄檻を作る事を知る、彼れ能く猛虎を捕ふるの術を知る。猛虎も遂に幾間《いくけん》の隘牢《あいらう》に甘んぜざるを得ざるの時なしとせんや。

     憐れむ可きは戦病国

 仏独相対して兵備日に厳なり。而して其中間に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《はさ》まれたる以太利《イタリー》は遂に如何《いか》ならむ。邦運久しく疲れて産業興らず。民多くは一種固有の疾疼《しつとう》に困《くる》しむ。而して国境を守るの兵は日に多く、痩《や》せたる民衆に課
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