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借《かり》に問ふ、今日《きよう》の月は昨日《きのう》の月なりや?
然り! 踏めども消せども消えぬ明光《ひかり》の月、
嗚呼少《わか》かりし時、曽《か》つて富嶽《ふがく》に攀上《よじのぼ》り、
近かく、其頂上《いただき》に相見たる美くしの月
美の女王! 曽つて又た隅田《すみだ》に舸《ふね》を投げ、
花の懐《ふところ》にも汝《なんじ》とは契《ちぎり》をこめたりき。
同じ月ならん! 左《さ》れど余には見えず、
同じ光ならん! 左れど余には来らず、
呼べど招けど、もう
汝は吾が友ならず。
第七
牢番は疲れて快《よ》く眠り、
腰なる秋水のいと重し、
意中の人は知らず余の醒《さめ》たるを……
眠の極楽……尚ほ彼はいと快《こころよ》し
嗚呼二枚の毛氈《もうせん》の寝床《とこ》にも
此の神女の眠りはいと安し!
余は幾度も軽るく足を踏み、
愛人の眠りを攪《さま》さんとせし、
左《さ》れど眠の中に憂《うさ》のなきものを、
覚《さま》させて、其《そ》を再び招かせじ、
眼を鉄窓の方に回《か》へし
余は来《く》るともなく窓下に来れり
逃路を得ん
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