らん!
斯く云ふ我が魂も獄中にはあらずして
日々夜々《ひびやや》軽るく獄窓《ごくそう》を逃《にげ》伸びつ
余が愛する処女の魂も跡を追ひ
諸共《もろとも》に、昔の花園《はなぞの》に舞ひ行きつ
塵《ちり》なく汚《けがれ》なき地の上には[#「は」に〔ママ〕と傍書]ふバイヲレット
其名もゆかしきフォゲットミイナット
其他種々《いろいろ》の花を優しく摘みつ
ひとふさは我《わが》胸にさしかざし
他のひとふさは我が愛に与へつ
ホツ! 是《こ》は夢なる!
見よ! 我花嫁は此方《こなた》を向くよ!
其の痛ましき姿!
嗚呼爰《ここ》は獄舎
此世の地獄なる。
第六
世界の太陽と獄舎《ひとや》の太陽とは物異《かわ》れり
此中には日と夜との差別の薄かりき、
何《な》ぜ……余は昼眠《ね》る事を慣《なれ》として
夜の静《しずか》なる時を覚め居《い》たりき、
ひと夜《よ》。余は暫時《しばし》の坐睡《ざすい》を貪《むさぼ》りて
起き上り、厭《いと》はしき眼を強ひて開き
見廻せば暗さは常の如く暗けれど、
なほさし入るおぼろの光……是れは月!
月と認《み》れば余が胸に絶えぬ思ひの種《たね
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