に妬《ねた》まれて、
愛も望みも花も萎《しお》れてけり、
一夜の契《ちぎ》りも結ばずして
花婿と花嫁は獄舎《ひとや》にあり。
獄舎は狭し
狭き中にも両世界《りようせかい》――
彼方《かなた》の世界に余の半身《はんしん》あり、
此方《こなた》の世界に余の半身あり、
彼方が宿《やど》か此方が宿か?
余の魂《たま》は日夜《にちや》独り迷ふなり!
第五
あとの三個《みたり》は少年の壮士なり、
或は東奥《とうおう》、或は中国より出でぬ、
彼等は壮士の中にも余が愛する
真に勇豪なる少年にてありぬ、
左《さ》れど見よ彼等の腕《うで》の縛らるゝを!
流石《さすが》に怒れる色もあらはれぬ――
怒れる色! 何を怒りてか?
自由の神は世に居《い》まさぬ!
兎《と》は言へ、猶《な》ほ彼等の魂《たま》は縛られず、
磊落《らいらく》に遠近《おちこち》の山川に舞ひつらん、
彼の富士山の頂《いただき》に汝の魂《たま》は留《とどま》りて、
雲に駕し月に戯れてありつらん、
嗚呼何ぞ穢《きた》なき此の獄舎《ひとや》の中に、
汝の清浄《せいじよう》なる魂《たま》が暫時《しばし》も居《お》
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