そを運ぶ事さへ容《ゆる》されず、
各自《かくじ》限られたる場所の外《ほか》へは
 足を踏み出す事かなはず、
  たゞ相通ふ者とては
  仝《おな》じ心のためいきなり。

   第四
   四人の中にも、美くしき
   我《わが》花嫁……いと若《わ》かき
   其の頬《ほお》の色は消失《きえう》せて
   顔色の別《わ》けて悲しき!
   嗚呼余の胸を撃《う》つ
   其の物思はしき眼付き!
彼は余と故郷を同じうし、
 余と手を携へて都へ上りにき――
京都に出でゝ琵琶《びわ》を後《あと》にし
 三州の沃野《よくや》を過《よぎ》りて、浜名に着き、
富士の麓に出でゝ函根《はこね》を越し、
 遂に花の都へは着《つき》たりき、
愛といひ恋といふには科《しな》あれど、
 吾等雙個《ふたり》の愛は精神《たま》にあり、
花の美くしさは美くしけれど、
 吾が花嫁の美《び》は、其《その》蕊《しべ》にあり、
梅が枝《え》にさへづる鳥は多情なれ、
 吾が情はたゞ赤き心にあり、
彼れの柔《よわ》き手は吾が肩にありて、
 余は幾度《いくたび》か神に祈《いのり》を捧《ささげ》たり。
 左《さ》れどつれなくも風
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