を捨《すて》たり、
余が代《よ》には楚囚となりて
とこしなへに母に離るなり。
第三
獄舎《ひとや》! つたなくも余が迷《まよい》入れる獄舎は、
二重《ふたえ》の壁にて世界と隔たれり、
左《さ》れど其壁の隙《すき》又た穴をもぐりて
逃場《にげば》を失ひ、馳《かけ》込む日光もあり、
余の青醒《あおざ》めたる腕を照さんとて
壁を伝ひ、余が膝の上まで歩《あゆみ》寄れり。
余は心なく頭を擡《もた》げて見れば、
この獄舎は広く且《かつ》空《むな》しくて
中に四つのしきりが境となり、
四人の罪人《つみびと》が打揃ひて――
曽《か》つて生死を誓ひし壮士等が、
無残や狭まき籠に繋《つなが》れて!
彼等は山頂の鷲《わし》なりき、
自由に喬木《きようぼく》の上を舞ひ、
又た不羈《ふき》に清朗の天を旅《たび》し、
ひとたびは山野に威を振ひ、
剽悍《ひようかん》なる熊をおそれしめ、
湖上の毒蛇の巣を襲ひ
世に畏《おそ》れられたる者なるに
今は此籠中《ろうちゆう》に憂《う》き棲《すま》ひ!
四人は一室《ひとま》にありながら
物語りする事は許されず、
四人は同じ思ひを持《もち》なが
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