み》の花なる少女も、
  国の為とて諸共《もろとも》に
  この花婿も花嫁も。

   第二
余が髪は何時《いつ》の間《ま》にか伸びていと長し、
前額《ひたい》を盖《おお》ひ眼を遮《さえぎ》りていと重し、
肉は落ち骨出で胸は常に枯れ、
沈み、萎《しお》れ、縮み、あゝ物憂《ものう》し、
   歳月《さいげつ》を重ねし故にあらず、
   又た疾病《しつぺい》に苦《くるし》む為ならず、
   浦島が帰郷の其れにも
   はて似付《につ》かふもあらず、
余が口は涸《か》れたり、余が眼は凹《くぼ》し、
  曽《か》つて世を動かす弁論をなせし此口も、
  曽つて万古を通貫したるこの活眼《かつがん》も、
はや今は口は腐《くさ》れたる空気を呼吸し
眼は限られたる暗き壁を睥睨《へいげい》し
且つ我腕は曲り、足は撓《た》ゆめり、
嗚呼《ああ》楚囚! 世の太陽はいと遠し!
噫《ああ》此《こ》は何の科《とが》ぞや?
 たゞ国の前途を計《はか》りてなり!
噫此は何の結果ぞや?
 此世の民に尽したればなり!
    去《さ》れど独り余ならず、
吾が祖父は骨を戦野に暴《さら》せり、
吾が父も国の為めに生命《いのち》
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