小説の如くに且つ最も優美なる霊妙なる者となすに難《かた》からずと。
 幸にして余は尚《な》ほ年少の身なれば、好《よ》し此「楚囚[*青空文庫版注1]之詩」が諸君の嗤笑《ししよう》を買ひ、諸君の心頭をを傷《きずつ》くる事あらんとも、尚ほ余は他日是れが罪を償ひ得る事ある可しと思ひます。
 元《も》とより是は吾国語の所謂《いはゆる》歌でも詩でもありませぬ、寧《むし》ろ小説に似て居るのです。左《さ》れど、是れでも詩です、余は此様にして余の詩を作り始めませう。又た此篇の楚囚は今日の時代に意を寓したものではありませぬから獄舎の模様なども必らず違つて居ます。唯《た》だ獄中にありての感情、境遇などは聊《いささ》か心を用ひた処です。
  明治廿二年四月六日    透谷橋外《きようがい》の僑寓《きようぐう》に於いて[*青空文庫版注2]
                   北村門太郎《もんたろう》謹識


   第一
曽《か》つて誤つて法を破り
  政治の罪人《つみびと》として捕はれたり、
余と生死を誓ひし壮士等の
  数多《あまた》あるうちに余は其首領なり、
  中《なか》に、余が最愛の
  まだ蕾《つぼ
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