楚囚《そしゆう》之詩
北村透谷


自序

 余は遂に一詩を作り上げました。大胆にも是《こ》れを書肆《しよし》の手に渡して知己及び文学に志ある江湖《こうこ》の諸兄に頒《わか》たんとまでは決心しましたが、実の処躊躇《ちゆうちよ》しました。余は実に多年斯《かく》の如き者を作らんことに心を寄せて居ました。が然し、如何《いか》にも非常の改革、至大艱難《かんなん》の事業なれば今日までは黙過して居たのです。
 或時は翻訳して見たり、又た或時は自作して見たり、いろいろに試みますが、底事[#「底事」に〔ママ〕と傍書]此の篇位の者です。然るに近頃文学社界に新体詩とか変体詩とかの議論が囂《かまびす》しく起りまして、勇気ある文学家は手に唾《つばき》して此大革命をやつてのけんと奮発され数多の小詩歌が各種の紙上に出現するに至りました。是れが余を激励したのです。是れが余をして文学世界に歩み近よらしめた者です。
 余は此「楚囚之詩」が江湖に容《い》れられる事を要しませぬ、然し、余は確かに信ず、吾等の同志が諸共《もろとも》に協力して素志を貫く心になれば遂には狭隘《きようあい》なる古来の詩歌を進歩せしめて、今日行はるゝ
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