…神の心は及ぶなる。
思ひ出す……我妻は此世に存《あ》るや否?
彼れ若《も》し逝《ゆ》きたらんには其化身なり、
我《わが》愛はなほ同じく獄裡に呻吟《さまよ》ふや?
若し然らば此鳥こそが彼れの霊《たま》の化身なり。
自由、高尚、美妙なる彼れの精霊《たま》が
この美くしき鳥に化せるはことわりなり、
斯くして、再び余が憂鬱を訪ひ来《きた》る――
誠《まこと》の愛の友! 余の眼に涙は充《み》ちてけり。
第十五
鶯は再び歌ひ出でたり、
余は其の歌の意を解《と》き得るなり、
百種の言葉を聴き取れば、
皆な余を慰むる愛の言葉なり!
浮世よりか、将《は》た天国より来りしか?
余には神の使とのみ見ゆるなり。
嗚呼左《さ》りながら! 其の練《な》れたる態度《ありさま》
恰《あた》かも籠の中より逃れ来れりとも――
若し然らば……余が同情を憐みて
来りしか、余が伴《とも》たらんと思ひて?
鳥の愛! 世に捨てられし此身にも!
鶯よ! 卿《おんみ》は籠を出《い》でたれど、
余は死に至るまで許されじ!
余を泣かしめ、又た笑《え》ましむれど、
卿の歌は、余の不幸を救ひ得じ。
我が花嫁よ、……否
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